日時:2025/7/22
場所:京都大学東南アジア地域研究研究所+オンライン

セミナー「ダイヤモンドオープンアクセスに関する世界の潮流」

発表者: 坂本拓氏(国立情報学研究所 学術基盤推進部 図書館連携・協力室係長 (JPCOAR担当))

発表者タイトル:「ダイヤモンドオープンアクセスに関する世界の潮流」

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主催:科研費基盤研究(C)25K15810「日本の<図書館出版>の現状・課題・可能性:ダイヤモンドOA振興に向けた基礎調査」

後援:紀要編集者ネットワーク、研究・イノベーション学会 大学経営研究懇談会

概要

最近、耳にすることが多くなった「ダイヤモンドオープンアクセス」。
読者も著者も料金の支払いが不要な、ある意味理想的な出版形態のことですが、地域や立場によってその捉え方が微妙に異なります。今回、ダイヤモンドオープンアクセスに関する海外の動向を紹介するとともに、それによって大学図書館の役割が将来どのように変わりうるのかを皆様といっしょに考えたいと思います。

講演の記録

講演スライド
「ダイヤモンドオープンアクセスに関する世界の潮流」 by 坂本拓 is licensed under CC BY-SA 4.0

講演の記録

■ダイヤモンドオープンアクセスとは

ダイヤモンドオープンアクセスは、著者がAPCを支払わず、読者も購読料を支払わない出版形態です。「ダイヤモンドオープンアクセス」という言葉は、2020年以降のヨーロッパでよく使われるようになりました。2021年にThe OA Diamond Journals Studyという、ダイヤモンドオープンアクセスジャーナルに関する調査研究が行われました。この調査は、Science Europeというヨーロッパの研究助成団体と研究者団体からなる組織と、cOAlition Sという全ての研究成果がオープンアクセスになることを目指して活動している研究助成団体からなる組織が合同で行ったものです。その結果によると、世界にはダイヤモンドOAジャーナルが、2021年時点で推定17,000から29,000タイトルぐらいあり、現在流通している論文の総数の8%から9%ぐらいがダイヤモンドオープンアクセスで、これはオープンアクセスの出版物のうちの45%ぐらいです。

それを踏まえて、その翌年、2022年に、ダイヤモンドオープンアクセスのためのアクションプラン、行動計画が発表されました。Science EuropeとcOAlition S、それからOPERASというEUで人社系の学術情報を流通を支援しているインフラと、フランスの研究助成機関が中心になって作成したものです。その行動計画では、ダイヤモンドオープンアクセスジャーナルはたくさんあるけれども、それぞれが比較的小規模で孤立している傾向にあるので連携が必要であり、そのためにCapacity Centre for Diamond Publishingという非営利の団体を設立すると宣言されています。

ただ、ダイヤモンドオープンアクセスの捉え方には、地域によって違いあるので、それを詳しく見ていきたいと思います。

■欧米のダイヤモンドオープンアクセスの状況

欧米では、基本的には国ごとにダイヤモンドオープンアクセスのプラットフォームが構築されています。人社系がメインのものが多く、論文だけでなく書籍も公開しているケースが多いという特徴があります。

[フランス]フランスでは、OpenEditionというポータルが2011年に開設され、ここで論文だけでなく書籍も公開しています。人社系に特化していますが、公開しているタイトル数はジャーナル658、書籍1,545とかなり多い。提供しているのはLe Centre pour l’édition électronique ouverte(Cléo)という国立の研究機関と大学等で構成されている組織です。

[フィンランド]フィンランドでは、学会やアカデミーなどの研究者コミュニティが中心となって、ジャーナルのプラットフォームと書籍のプラットホームの両方を提供しています。ジャーナル公開にはJournal.fiというものが2017年から、書籍公開にはEdition.fiというものが稼働しています。

[ポルトガル]ポルトガルでは、Scientific Journal Hosting Service(SARC)というものが、2011年から稼働していています。学術雑誌のオンライン出版を促進しており、OJS(Open Journal System)というカナダで開発されたオンラインでジャーナルを出版するための無料のシステムが使われています。

[スペイン]スペインでは、Spanish Repository of Science and Technology(RECYT)という大きなリポジトリが2009年から稼働しています。スペインのジャーナルの国際化や専門化を推進することを目的に構築されており、これもシステムにはOJSが使われています。

[カナダ]カナダではÉruditという非営利のジャーナルを出版するためのプラットホームが、1998年、ブダペスト・オープンアクセス・イニシアティブよりも前に構築されていまず。人社系が中心ですが、一部自然科学系のジャーナルも公開されています。コンテンツの95%以上がオープンアクセスですが、一部、2年から3年のエンバーゴ、つまり公開まで2年から3年の猶予がつくものがあります。この点で、日本のJ-STAGEに似ています。J-STAGEも基本はオープンアクセスですが、学会誌によっては最新号は学会の会員しか読めず、半年、1年といったエンバーゴ期間の後にオープンアクセスになるケースがあります。

[アメリカ]アメリカでは、私が調べた限りでは、国としてのダイヤモンドOAプラットホームやセンターを見つけることができませんでした。個々の大学や研究機関が、図書館や大学の出版局などと連携しながらダイヤモンドOAを行っている状況だと思います。

このように欧米では、古いものだと1998年から、多くは2010年代以降からダイヤモンドOAのプラットフォームが提供されています。

■グローバルサウスのダイヤモンドオープンアクセスの状況

グローバルサウスのダイヤモンドオープンアクセスは、欧米よりも長い歴史があります。英語以外の言語、スペイン語やポルトガル語やフランス語など旧宗主国の言語で学術情報を生産して流通させていることが多いのが特徴です。また欧米では、商業出版社のジャーナルに論文を投稿する、ジャーナルを購読するのがメインで、補助的にダイヤモンドオープンアクセスも行っている状況ですが、グローバルサウスでは、ダイヤモンドオープンアクセスが学術情報流通のメインになっています。

[ラテンアメリカ]ラテンアメリカには、cOAlition Sが推進している(対象助成機関から助成を受けた)研究者がAPCを支払ってオープンアクセスにするPlan Sなど、APCを支払うゴールドオープンアクセスに対する強い嫌悪感があります。ラテンアメリカでは、出版される論文の96%が非営利の大学や学会から刊行されています。非営利の出版主体は、大学51.35%、学会37.25%、国の機関9.27%です。

Redalycというラテンアメリカのジャーナル出版プラットホームは2003年から、欧米でAPCに基づくゴールドオープンアクセスが主流になる10年ぐらい前から稼働しています。ラテンアメリカでは研究者が自由に論文を投稿して、自由に読むのが当たり前になっていた中で、出版社がAPCを取るビジネスを始めたので強い抵抗感を持ったわけです。Redalycでは、36か国817機関の1,727タイトルが公開されています。その運営資金は、大学など教育研究機関や政府機関からの助成金、協賛機関からの寄付金です。商業出版社の5%以下のコストで運営が可能だと担当の方がおっしゃっていました。

[アフリカ]アフリカでもダイヤモンドオープンアクセスがメインになっています。アフリカの場合は、イギリスが旧宗主国で公用語が英語の国も多くあります。でも、英語で論文を書いて投稿しても、論文の品質的には問題がないけれども、主題がジャーナルの守備範囲ではないのでアクセプトできないと言われるケースがあります。編集委員が先進国の研究者に偏りすぎているために、アフリカ固有のトピックに基づいた論文が、商業出版社に論文を掲載して読んでもらうルートから阻害をされてきた面があります。

APCに関しては、途上国の研究者はディスカウントされることがあるんですけれども、それでも高額すぎて支払えない。アフリカの研究者にアンケート調査をした結果によると、APCとして支払ったことがある金額の平均が175ドルぐらいで、300ドル以上になると支払えない。先進国の研究者だと、APCが2,000ドルを下回ることはないと思うんですけれど。アフリカでは、所属機関から研究費が支給されない、もしくはごく少額で、APCを支払うとしたら研究者自身の給料から支払うしかないケースが多く、APCによるゴールドオープンアクセスは現実的ではありません。このため、研究者はAPCを要求しないOAジャーナルを強く歓迎しています。

アフリカで最大のジャーナル出版プラットフォームはAfrican Journals Online(AJO)です。1998年、ブダペスト・オープンアクセス・イニシアティブよりも前から稼働しており、現在41か国の876タイトルのアフリカのジャーナルを収録、公開しています。ゴールドOAが410タイトル、ダイヤモンドOAが228タイトル、購読料のあるジャーナルが238タイトルです。ヨーロッパの助成機関からの寄付によって運営されています。掲載論文は自動的にEBSCOhostというデーターベースに収録されるので、論文が世界的に読んでもらえます。

■商業出版社のダイヤモンドオープンアクセス?

ダイヤモンドオープンアクセスと呼んで良いか議論が分かれるといいますか、現在では見做さないという見方が強いと思うんですけど、商業出版社による「ダイヤモンドオープンアクセス」もあります。

[S2O]S2Oというモデルでは、商業出版社が刊行しているジャーナルに対して、世界中の機関から支払われた購読料の合計金額が、出版社がそのジャーナルに期待している目標額に達した場合、その年度はAPCがかからず、誰でも自由に読めるようになります。

[SCOAP3]SCOAP3は、S2Oに似ていますが、高エネルギー物理学分野に特化した複数の出版社のジャーナルに対して、世界のいくつかの機関が事前に購読料を供出して目標額に達したら、オープンアクセスになって、APCも取らないというものです。

[F1000]F1000は、イギリスのTaylor & Francisという大手の出版社が提供している商業プラットフォームで、ここに論文を投稿するとオープン査読が行われて、それにパスすると論文が公開されます。その際にAPCが発生するのでダイヤモンドじゃないんですけれども、途上国ではAPCを研究助成機関が代替して支払うので、ダイヤモンドオープンアクセスなんだという考え方をしようと思えばできなくはないというものです。

こんなふうに、商業出版社はダイヤモンドオープンアクセスから収入を得る方策を取りつつあるといえます。

■ダイヤモンドOAの基準(DIAMASとCRAFT-OA作成)

DIAMASというダイヤモンドオープンアクセスを推進するために3年間の期間限定で作られたヨーロッパのプロジェクトと、CRAFT-OAというダイヤモンドオープンアクセスのための技術的な要件を推進するために作られた団体が、2024年にダイヤモンドオープンアクセスが満たすべき6つの基準を発表しました。研究者が論文を自由に投稿できて自由に読めさえすれば、ダイヤモンドオープンアクセスなのかという議論に応えるものです。

1点目は、永続的な識別。つまり、ジャーナルがISSNを持っていることです。

2点目は、学術雑誌であること。ジャーナルが掲載論文の基準を定めていて、査読という言葉は使われていませんが、投稿されてきた論文を選定して掲載することが要件です。

3点目は、オープンアクセスになっていて誰もが自由に読めることに加えて、オープンライセンスになっていること。具体的には、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスになると思いますが、メタデータの中にそれが明記されていることです。

4点目は、ダイヤモンドオープンアクセスの必須条件ですが、APCを取らないこと。APCという言葉でなくても、カラー料などの名目でお金を取ったりせず、完全に無料であるとウェブサイトに明記していることが必要です。

5点目は、議論になるところだと思うんですけれども、世界中の全ての研究者が投稿可能であることです。日本の紀要の多くは論文の執筆者を発行母体の研究室や大学所属の研究者に限定しているので、この要件を厳密に当てはめるとダイヤモンドOAではないことになってしまいます。もし紀要をこの基準に則って運用して、世界中の研究者から大量に論文が送られてきたら、それを処理しなければならないのでしょうか。そうなると、フリーライドをする研究者が多くなって、不公平、非対称的な状況が進む面があるんじゃないかという議論も成り立つと思います。

6点目は、コミュニティが所有していること。ジャーナルを公的機関、非営利機関が所有しているということです。この基準では、S2Oなど商業出版社のモデルはダイヤモンドオープンアクセスではないことになります。

■ダイヤモンドOAの実施・支援機関(Capacity Centre for Diamond Publishing)

ダイヤモンドオープンアクセスのための行動計画についてはじめに触れましたが、そこで設立が宣言されたCapacity Centre for Diamond Publishingに関連して、EUはダイヤモンドオープンアクセスを実施したり支援したりする組織を4階層に分けています。

1番目の階層は、コミュニティです。コミュニティとは、実際にジャーナルや書籍やプレプリントサーバーなどを提供、公開している主体です。日本でいうと、紀要を刊行している研究室や学会などがこれに当たります。

2番目は、キャパシティーセンターです。コミュニティに対して、法的な面のサポート、インフラ、公開基盤などを提供する国や機関や分野レベルの組織です。日本でいうと、J-STAGEがここに当てはまるのかどうかというところですね。

3番目のキャパシティーハブは、地域内のキャパシティーセンターをサポートするところです。例えばアフリカとか中南米とかEUとか、いまはありませんが中東とかアジアとかオセアニアといった地域レベルの組織になります。

4番目のグローバルアライアンスは、キャパシティーハブをサポートするところ、つまり全世界のダイアモンドOAをマネジメントするところになります。

これをピラミッド型の図に整理して具体的な組織と対応させると、一番下に個々のダイヤモンドジャーナルを刊行するコミュニティがある。その上に国レベルのダイヤモンドキャパシティーセンターがあって、それが先ほどお話ししたヨーロッパのそれぞれの国のプラットホームや機関ですね。さらにその上のダイヤモンドキャパシティハブはそれぞれの国にあるキャパシティセンターを包括するところで、例えばアフリカではAJOLがあるし、中南米ではRedalycがある。先ほどの行動計画ではこれのヨーロッパ版を作ろうとしています。ヨーロッパの国々のダイヤモンドキャパシティセンターを包括する、ヨーロッパとしてのハブですね。一番上、全世界のキャパシティーハブを包括するところがユネスコです。ユネスコはこれを引き受けることに合意しています。ですから、ユネスコの下にダイヤモンドオープンアクセスが今後組織化されて推進されていくことになると思います。

■European Diamond Capacity Hub(EDCH)

実際にEUは今年の1月に、European Diamond Capacity Hub(EDCH)を作りました。OPERASというEUの人社系の学術情報流通を支援するところがホストです。運営資金は、現在フランスが一番出しているんですけれども、EU内の研究助成団体が拠出しています。その活動は6つのタスクフォースを基に行うとしています。

タスクフォースの1つ目は、コミュニティマネジメント。ここでいうコミュニティとは、個々のダイヤモンドOAのジャーナルを出している小規模なところです。コミュニティやキャパシティーセンターとのコミュニケーションを確保する。それから出版ツールを使いやすいようにその翻訳を支援します。

2つ目は、スキルとコンピテンシー。これまでダイヤモンドOAの出版を行っていなかった機関のために出版に関する教材を作成したり、提供したりします。

3つ目は、品質調整です。先ほどみたダイヤモンドオープンアクセスの6つの基準に合うように、ダイヤモンドオープンアクセスの調整をします。基準を見直していくというものも、ひょっとしたらここに含まれるのかもしれません。

4つ目は、ツールとテクノロジー。出版ツールとプラットフォームの提供と調整です。具体的には、OJSといった出版ツールのサポートをします。

5つ目は、野心的なタスクだと思うんですけれども、ダイヤモンド化です。現在のところ人社系がダイヤモンドオープンアクセスの中心になっていますが、自然科学系も含めて広い分野のジャーナルがダイヤモンド化することを支援します。ジャーナルを商業出版社から刊行しているところがダイヤモンドに切り替えるには先立つものが必要になるので、そのための基金を用意して、基金を活用していくことを計画しています。

6つ目は、その基金と関係するんですけれども、資金調達と募金活動です。ダイヤモンドOAの6つの基準の中に、私が疑問を呈した「全ての研究者が投稿可能である」という基準がありましたが、それを逆手に取って、全ての研究者がその恩恵にあずかれるのだから、全てのステークホルダーがお金を出すのが当然だという考え方に立って、たくさんの機関からお金を出してもらえるように活動していくことになっています。

■学術情報流通の現状

現在の学術情報流通の状況を整理すると、アメリカやヨーロッパでは高額な購読料やAPCを出版社に支払って、論文が出版社のジャーナルに掲載されて世の中に出ると、研究者は高いインパクトファクターを得られ、大学もそれによって高い大学ランキングを得られるという形で動いています。

それに対して、グローバルサウスのラテンアメリカやアフリカでは、APCを払えないし、購読料の支払いもなかなか難しい。言語の壁や主題の壁もあるので、自分たちでジャーナルのプラットフォームを構築して運用してきました。

アメリカやヨーロッパでも、購読料やAPCのモデルが持続可能かどうか怪しくなってきています。ヨーロッパのダイヤモンドキャパシティーハブには責任者が二人いますが、そのうちの一人はcOAlition Sのエグゼクティブディレクターの方です。つまり、少し前まではAPCを支払ってオープンアクセスにしていくことを推進していた方ですが、その方が、「APCの価格は制御不能になりつつあり、論文を投稿する権利を研究者コミュニティに取り戻さないといけない」と参考文献の中で述べています。

大学などの研究機関が出版社に支払う購読料やAPCは、毎年値上げされています。一方で、ある大手出版社の場合、利益率は4割近くあります。ジャーナルを刊行する人件費などの経費を引いてもそれだけ残るんですね。その利益は、設備投資として電子ジャーナルのプラットフォームを改修したり、AIシステムを作ったりするのにも使われますが、その2倍以上が配当金として株主に支払われています。配当金の金額は年々増加して、10年間で2倍ぐらいになっています。配当金と同じぐらい、自社株買いにも利益を使っています。その結果、株式市場で株価が上がると、株主にとっては自分の資産が増えることになるので喜ばれます。商業出版社は年度毎に売上高増加のKPIを設定して、そのKPIを達成したら翌年の株主総会でそのことを報告して、CEOの十数億円の報酬に対する賛成を得ている。なぜ配当金を毎年増やし続けなければいけないのかというと、株主に逃げられないためです。株主にとっては、株式投資だけでなく国債や不動産などの選択肢もあって、株式会社にしてもAI関連などぐんぐん伸びていくであろう他の企業もある。だから配当金を増やし続けるんですけど、その原資のほとんどは税金や授業料ですよね。配当金が10年後にはまた2倍になるなら、サステイナブルではないと思います。学術情報流通という公共性の高い事業が市場経済の中に置かれているのはミスマッチじゃないかなと私は思っています。ダイヤモンドオープンアクセスには現時点では課題もたくさんありますが、持続可能性を考えると取り組んでいくべきものと私は考えています。

■オープンアクセスジャーナルのコスト

自分たちでオープンアクセス誌を作るとどれぐらいのコストがかかるのかを、中東の学術情報のコンサルタントであるKnowledge Eが算出しています。ISSNを取るのにいくら、ウェブサイトを作るのにいくらと細かく人件費を含めてコストを積み上げて、それを論文1本あたりに換算すると、年に4回出るジャーナルの場合40,750円、毎月出るジャーナルの場合28,702円です(毎号、論文7本掲載の想定)。商業出版社のAPCが数十万円なのに比べると非常に安価ですね。

■ダイヤモンドOAの課題

購読料やAPCを出版社に支払って、高いインパクトファクター、高い大学ランキングを得るモデルは、いつかは持続不可能になる。ラテンアメリカやアフリカは、欧米よりも先にダイヤモンドオープンアクセスを推進してきたんですけれども、いくつかの課題に直面しています。ダイヤモンドOAの課題は大きく分けると3点あり、それらを克服していく必要があると思います。

1点目は、誰がコストを負担するのかです。著者は無料で論文を投稿できるし、読者も無料で読むことができる。でも、ジャーナルを作るのにはお金がかかるので、出版社ほど高額ではないにしても、それを誰かが負担しなければならない。ラテンアメリカの場合は、大学や国といった公的なところが税金から支出してきたわけです。ここに、EUが定めたダイヤモンドオープンアクセスの基準を課すと、世界中の人が投稿できるようになって、フリーライドをする人がたくさん現れてしまうかもしれません。そんな根本的な問題があります。でも、ラテンアメリカやアフリカの取り組みや日本のJ-STAGEに比べると、ダイヤモンドオープンアクセスについては欧米は周回遅れなんですね。周回遅れで理想論を言っている。気にしなくていいとまでは言えないですけれども、6つの基準を厳格に守る必要があるのかどうかは議論したほうがいいと思います。

2点目は、コンテンツの品質保証です。アフリカの大学の学長が、ダイヤモンドオープンアクセスのジャーナルは商業出版社のものに比べて、残念ながら掲載論文のクオリティーに疑問があるとおっしゃられていました。ただ、いまは新しいツールや方法がいろいろありますよね。オープン査読としてプラットフォームで研究者が自由に議論、査読をするという形がありますし、AIの技術が進んでいけばAIでチェックをすることも可能になると思うので、コンテンツの品質保証は今後解決されていくんじゃないかなと思います。

3点目は、研究評価です。これは非常に大きな問題で、インパクトファクターを持っている商業出版社のジャーナルではなくて、ダイヤモンドオープンアクセスジャーナルに大事な研究成果を投稿してくださいというのは、なかなか難しいところがあります。一番疑問を呈されるところではありますが、ダイヤモンドオープンアクセスがうまく回転していくようになれば、研究者はそれを引用するようになっていくと思います。自由に論文が書けて、それが読まれて、どんどん引用されて引用数が増えていけば、インパクトファクターを持っていない、もしくはクラリベイトの基準を満たしていないジャーナルであっても、おそらく研究者コミュニティはそれをないがしろにはしないと思うので、そのときはいまとは違う状況が生まれるんじゃないかと、希望的観測もかねて思っています。

■図書館業務はどう変わるか

ダイヤモンドオープンアクセスが進むと、大学図書館の業務はどう変わるのかです。年々出版される論文の数は増えています。たくさん論文を出すことが研究者にとって有利になるからです。いまは出版社がかなりの数をさばいてくれている状況です。出版社からジャーナルを私たちが奪い取ろうというのがダイヤモンドオープンアクセスですが、果たして私たちが大量の論文をさばけるのかは深刻な問題だと思っています。学会がジャーナルを出していることが多いですけれども、学会の体力は限界で、そもそも自分たちでジャーナルをマネジメントするのが難しいから出版社にジャーナルを委託したケースも多いので、それを再び学会が回していくのはかなり難しいんじゃないかなと思います。国に専門の機関を設ける議論もあるかもしれませんけど、もしそれをいくつかの大学が引き受けるとなったら、もしくはダイヤモンドオープンアクセスに合致した紀要の流通の機能強化を大学図書館がやるとなったらどうでしょうか。私たち図書館職員は、メタデータや流通プラットフォームに関しては一定のスキルや知識がありますが、組版や校閲のスキルはほとんどないので、大学の出版局や広報などの関連組織とより連携していく必要があるだろうと現時点では考えています。